〜機能性豊富な栄養価、野菜の女王〜
(無味無臭で甘みも風味もないスーパーのトマト)
夏野菜の中での女王は、なんと言ってもトマト、みずみずしい赤は滋養があふれ、夏の疲れを癒すような輝き、私もこんなトマトが好きです。
夏野菜に限らず、1年通じての野菜の中で、何がすきかと聞かれたら、迷わずにトマトと答えるでしょう、それほどトマトには思い入れがあります。
私とトマトの付き合いはかなり長く、古い記憶の中に食卓にトマトが並び、それを家族並んで食べている残像が、頭の隅に残っています。
「トマトは栄養があるんだぞ」父親がそんな呟きを漏らし、母親が「だから沢山食べなさい」と箸で挟んで、私の茶碗に入れたのをなんとなく思い出します。
確か小学校低学年の頃、勿論戦前でトマトなどのハイカラな西洋野菜は、そんなに食卓に上らない頃です。
妙に青臭く鼻に抜ける独特のトマト臭があり、そのときは好んで食べたくはなかった野菜で、両親がそれを見かねて、私たち兄弟に無理に食べさせようとしていたのでしょう。
夏の暑い盛り、冷たい井戸水が張られたバケツの中に、赤いトマトが冷やされて浮かんでいるいる情景がよぎります。
蚊取り線香の臭いと、かすりの浴衣、団扇を使いながら涼をとり、冷えた赤いトマトを食べる、まさに夏そのものの風物詩がトマトの思い出です。
ところが最近、トマトは必ずしも夏だけの食べ物ではなく、1年通じてスーパーの店頭に並びます。
山が紅葉になっても、木枯らしが吹く季節になっても、一面白い雪景色の中でも、トマトは変わらぬ赤い色で、季節感を感じさせずに、家庭の食卓に上ります。
まして洋風化した最近の日本の食事には、トマトは欠かせない色取りと、味の引き立て役として存在感を発揮します。
必ずしも生野菜としてではなく、トマトケチャップやトマトピューレ、トマトジュースからホールトマトの缶詰など、料理の材料として重宝されてます。
もちろん生のトマトも豊富な種類を並べ、生食だけでなく料理の素材としてでも、多く使われます。
まして大衆化したイタリア料理とトマトは、切っても切れない関係で、その味に馴染んだ日本人のトマトへの嗜好は年毎に上昇しています。
そんな消費傾向が伸びてきたトマトに、今年(2012年)2月京都大学の研究室から、健康効果の学術的発表があり、それを新聞やテレビが取り上げたことから、冬の寒い季節にもかかわらず、トマト消費にさらに火がつきました。
「トマトが店頭から消える」こんな大げさの表現が踊るくらいブームとなり、一説には新鮮トマトは一挙に2倍の消費量になり、トマトジュースは4倍の売り上げとなったと伝えられました。
トマトを主力商品としている某食品会社の株価は上がり、トマト栽培者にも大きなチャンスともなりました。
たしかにトマトは健康にいいのです。
子供の頃父親から「栄養に富んで体にいい」と食べることを進められた証が、70年後に証明されたことになります。
「トマトは赤くなくちゃトマトでない」こんなことを強調した、健康食品のある経営者がいました。
その人はトマトの中に含まれるリコピンの抗酸化効果をうたったサプリメントを販売して居ましたが、このトマトブームに乗れたかどうか分かりません。
このリコピンというトマトの有効成分は、よく知られたカロテノイド、ベータカロチンの仲間で、この赤い色素の中に存在していることから、トマトは赤いことが価値があるということになったのでしょう。
西洋の諺に「トマトが赤くなると医者が青くなる」がありますが、リンゴが赤くなれば病気がなくなり、医者の仕事がなくなるの例えにも使われるよう、赤に代表される、果物や野菜の色彩は抗酸化力はじめ、機能性成分の宝庫ともいえます。
ブルーベリーやブドウの赤紫の色のアントシアニン、かぼちゃや大豆の黄色のフラボノイド、みかん、オレンジの黄色のレモネン、ほうれん草や小松菜の緑色のキサントフィル、すべて色つきの植物性食品は、ポリフェノールはじめ、機能性の栄養素を含んでいます。
「緑黄色野菜をバランスよく食べる」健康管理の指南書には、必ず記載される定番お言葉ですが、この言葉に赤色がないのは残念です。
それくらいトマトの赤が持つ薬効効果は確かなもののようです。
よく「肝臓の悪い人はトマトを食べろ」と昔からいわれていますが、京大の研究発表でも、トマトに含まれるリノール酸の仲間に、脂肪を燃焼し高中性脂肪や脂肪肝、肝機能不全の人の健康回復に役立つ、脂肪燃焼遺伝子を増やす物質を活性化する働きを発見した報告があります。
それゆえ、血液サラサラ効果のイメージから、動脈硬化、高血圧、高コレステロール、メタボリックシンドローム(肥満)、アンチエイジング(抗老化)、さらに糖尿病など、まさに生活習慣病予防食品の代表選手の扱いとなりました。
たしか、トマトには抗酸化と抗癌をうたうリコピンの存在が強烈ですが、体力増強、免疫力増強、疲労回復、筋肉増加のアミノ酸のグルタミンも多く含まれていますし、関節痛、、美肌、冷え性、アレルギーによいアルファリポ核酸、肝機能に効果があるイノシトール、整腸、便秘、肥満などに効果があるリグニン、フラクオリゴ糖など、盛りだくさんの機能性物質が豊富です。
こんな効果があると分かれば、トマトの消費が拡大するのは当たり前ですが、食事は穀類、肉魚類、豆類、根菜類、葉もの野菜、そして適当な塩と油、ビタミン、ミネラルのバランスが大切で、トマトだけで健康維持というわけにはいかないでしょう。
というものの、トマトは夏野菜の代表、夏バテ予防のためにも大いに食べましょう。
ただ少し残念なことには、最近のトマトは美味しくありません。
種類なのか栽培技術なのか、土壌の栄養価なのか、化学肥料のせいか、農薬の使いすぎか、色だけは赤いですが、トマトが持っている独特な風味と甘さがほとんどありません。
子供の頃食べた青臭い独特のトマト臭がありません。
野菜のイメージからフルーツ的に改良した結果かどうか、トマトブームで株価が上がった企業のトマトもスーパーに並んでいますが、色とサイズと包装は美しいが、味は野性味がなく味も甘さもなく、機械的な感触です。
戦後、私も農業をやり、毎年夏野菜の代表トマトを栽培しました。
形やサイズはまちまちでしたが、いまのトマトより数段美味しかったです。
もっとも畑のトマトは、完熟した最も美味しい時期に収穫した鮮度抜群のみずみずしさで、収穫したその日の食卓に上る自家製の長所がありましたが、スーパーなどで売られるトマトは収穫から何日経過したか分からない鮮度ですから、不味いのも仕方ないのでしょう。
さて、そんな不満を吹き飛ばす、新鮮、完熟、美味なトマトが届きました。
私の友人Iさん、82歳になる彼は100平米ほどの農地に、いくつかの作物を栽培する家庭菜園を持っています。
そこで作るトマトは、まさにトマトの本当の昔味を持った、甘くみずみずしく、馥郁(ふくいく)とした感無量の風味です。
「今年は少し失敗で」彼には不満の作柄だったようですが、スーパーのトマトにうんざりしていた舌には、干天の慈雨です。
隣近所におすそ分けし、本当のトマトの味と褒められますし、ふだんあまりトマトを食べない小学生の孫たちも、その美味しさにお代わりをします。
「フミン酸とフルボ酸の効果かもしれない、肥料も特別やらず、消毒も何もしないのに病気一つない、それが味にも影響していると思う」Iさんの感想です。
いずれにしろ、家庭菜園のトマトが、本職のトマト農家やトマト製造会社に味で勝った瞬間です。
こんなトマトだったらリコピンの栄養価がそのまま細胞に作用し、体の芯から健康になった気もします。
農家の皆さん、栄養価が高い美味しいトマトを、是非作ってください。