〜優れた抗酸化力と疲労回復のイミダペプチド〜
(渡り鳥の強力スタミナはムネ肉にある秘密)
〜鶏と日本人の付き合い〜
一般的に肉料理と言いますと、牛肉と豚肉が主流で、鶏肉は何となく重量感がなく、価格も食味感も低位に見られ、とびぬけたご馳走料理の代表にはならない傾向です。
料理も、から揚げ、焼き鳥、鍋物の水炊き、ちょっとハイカラにはフライドチキンにローストチキン、ご飯ものには親子丼ぐらいしか浮かばない、どの料理も高いお金が取れそうもありません。
まして栄養をつけ精力を高めるため食べる肉類は、脂が滴る赤身の牛肉豚肉となり、鶏肉という発想がありません。
いま懸案になっている、TPP交渉での畜産物の関税問題でも、牛肉と豚肉は国産を守ろうという姿勢ですが、鶏肉は対象ではありません。
よく言えば卵と鶏肉は、政府が守らなくても世界と太刀打ちできるとの判断かもしれませんが、逆の見方をすれば、政府の農業政策の中では重要産業ではないと、養鶏業者はひがんでも見ます。
そんな鶏肉ですが、人類の誕生から現在まで、人々の生活の場に一番近い動物で、人間の食料として珍重された歴史を持ち、宗教的戒律にも縛られず、世界のどの地域でも飼育し食べられている普遍性があります。
日本の歴史の中でも、天照大御神の物語にも鶏は重要な役目を演じ、神話に出てくる天の岩戸伝説でも、岩戸が開き太陽の明かりが差したとき、一番先にトキの声を張り上げ鳴いたのは鶏でした。
そんなことから日本では、神の使番いとして人間社会とのコミニュケーションを図るメッセンジャーとなり、神社の入り口には鶏が止まる止まり木の鳥居があります。
それだけ過去の日本では鶏は、牛や豚よりも身近で人間との付き合いも濃厚な間柄です。
名前もニワトリ(庭鳥)と呼ばれ、各家の庭先で飼育され卵を産み、肉となり私たちの先祖の生活の中に溶け込んだ貴重な動物蛋白です。
事実日本では、仏教伝来以後、牛肉や豚肉は食べることはタブーで、また食品として流通しても、掃いて捨てるような安い価格、高級食材の鶏肉とは比べようもない下賤な食べ物でした。
それが今日では、スーパーマーケットの精肉売り場で、牛肉豚肉の順に高級で、鶏肉は最も安い肉類として陳列されてます。
この安い肉は短期間に飼育されたブロイラー肉で、このブロイラー肉の生産能力と産業構造が、鶏肉を安くさせたといっていいでしょう。
それが「鶏肉は美味しくないが安いから買います」の代表食品となってしまったのです。
〜育種改良と大量生産が安くした〜
卵も鶏肉も安い理由は、驚異的な育種改良の進化と、大量生産システムの成果と私は思っています。
いま日本で生産され売られている卵も鶏肉も、種鶏のルーツは外国です。
残念ながら飼料原料もそうですが、飼育されている鶏の育種改良も日本ではありません。
日本でも1960年代初頭までは、国産鶏が主流で、農林省はじめ各都道府県でも改良を行っていましたが、性能的に外国の育種農場との闘いに惨敗し、今日ほとんどが外国鶏になりました。
これら外国鶏の育種の進歩を数字で見ますと、卵を産む鶏では1970年代に1年間230個の生産が、2010年以降は330個以上に改良されていますし、肉鶏の改良では2キロの生鳥にするのに、1970年は70日かかったのに、いまでは同じ大きさに30日間で到達し、1キロの生鳥を作るのに1.5キロの飼料で生産できます。
生産規模も卵の生産農場は50万羽、100万羽以上の飼育農場が主流で、施設も機械化し飼料給餌から卵の収穫は自動化、空気の流れから光の調節までコンピューター制御され、病気や害虫の侵入も防御できるような施設に代わりました。
鶏肉(ブロイラー)生産もこれと同じ傾向で、1人の生産者が年間10万羽以上の肉鶏を生産し、コスト削減に励んでいます。
このように育種改良と、生産施設の合理化は驚異的で、それゆえ、卵は物価の優等生とほめられ、鶏肉も安い肉の代表になりました。
これと比較すると、豚肉と牛肉生産は合理化が遅れていますし、育種改良も鶏には及びません。それは根本的に哺乳動物と卵生動物の繁殖機能の違いともいえます。
〜ムネ肉の栄養価と食文化〜
さてこんな条件で安くなり美味しくないといわれる鶏肉ですが、栄養学上は肉類の中で最も人間の健康には最適です。
そこでそれぞれの肉の栄養価の比較をしますと
100gの肉 牛肉ロース、 豚肉ロース、 鶏肉ムネ肉
タンパク質 12.9% 21.1% 22.9%
脂肪 42.5% 11.9% 1.5%
カロリー 456Kcal 202Kcal 108Kcal
分析結果から見ても、鶏肉のムネ肉は健康的です。
病院食や老人食、あるいはダイエット志向の人たちに、好まれる理由がそこにあります。
ところが日本の家庭ではムネ肉は好まれません。
ムネ肉はパサパサしていて味がないとの評価です。
一般的に肉のおいしさは脂にあります。
牛肉でもモモ肉より霜降りのロースが好まれますし、豚肉も脂がサンドイッチになったバラ肉がおいしいです。
鶏肉も同じ運命で、脂がついた皮がおいしいですし、皮付きの赤身のモモ肉が味があるので、市場ではモモ肉の方が人気が高く、生産市場の卸値段もモモ肉が1キロ600円に対し、ムネ肉は270円にしかなりません。
スーパーマーケットの価格も、モモ100グラム100円に対し、ムネ肉は60円ぐらいです。
日本ではこのような評価ですが、欧米ではムネ肉の評価が高いです。
その理由は、栄養的に見てムネ肉が健康的でもありますが、味に個性が少ないムネ肉の方が、どのような味付けにも馴染むことも人気の一つです。
また料理の方法と食卓での食べ方の違いにより、好みと需要が変わります。
日本人は箸を使う食文化で、鶏肉のモモ肉もムネ肉も箸に馴染む骨のない状態で流通します。
それがため処理する工場で骨を抜く作業の行程が入ります。
1羽の鶏を解体するのに、大きくても小さくても同じ手間です。
だとすれば大きな鳥を解体した方が、効率的ですので、日本のブロイラーは3キログラム超える大きさまで飼育します。
ところが、欧米をはじめ東南アジア地帯では、ブロイラーとは2キロ前後の大きさで、解体もしないで流通しています。
最も一部の鶏は骨なしの状態で流通もしていますが、太い骨が中央にあるモモ肉は解体が難しく、ムネ肉の方が解体がしやすく、解体歩留まりが高いですので、ムネ肉が好まれます。
また鶏肉の料理は骨がある状態で食卓に上りますし、ナイフ、フォークを使わず手で骨を掴んで食べることも許されます。
そうなるとムネ肉の方が骨が少なく食べやすく肉も柔らかく、また強烈なスパイスの味にも馴染みやすく使いやすいです。
それと比較して日本料理は、あまりスパイスも使わず、素材の持っている食味を堪能する料理が多く、歯ごたえと味の濃厚さからモモ肉に軍配が上がります。
日本人の好きな焼き鳥も水炊きも、味は淡泊で肉そのものの食味で勝負しますので、勢いモモ肉になりますし、さらに加えれば長期間飼育する地鶏系の味が好まれます。
ただしこの地鶏にしても、ムネ肉は淡泊でモモ肉の味には劣ります。
そんな事情で、日本のマーケットではムネ肉は可哀そうな存在で売れ行きが悪いです。
〜ムネ肉は驚異的な機能性物質〜
ところがこのムネ肉には、驚くべき健康効果があって、わけのわからない健康食品より、価値があることがわかってきました。
このムネ肉には、たんぱくアミノ酸の1種、カルノシンとアンセリンという物質が沢山入っています。
この物質は抗酸化力が強く、健康効果としては高血圧、高血糖値、高尿酸値の抑制、抗酸化作用によるがん、動脈硬化の対策にもなりますし、ことに疲労回復には顕著に効果があります。
疲労回復優れたところは、渡り鳥が長時間飛び続ける飛翔の能力を見ればわかります。
この渡り鳥をはじめ鳥類には、ムネを取り巻く筋肉には、飛び続けることのできる筋肉のたくましさと、それを長時間疲労させない物質が秘められているからです。
その物質が最近話題になった「イミダペプチド(Imidazole depeptide)」で、このアミノ酸がカルロシンとアンセリンで、鶏のムネ肉に多く含まれます。
この物質は海洋を泳ぎ続ける習性の、カツオやマグロなどにも含まれますし、肉類の牛肉、豚肉にも存在はしますが、圧倒的に鶏のムネ肉が多いです。
このイミダペプチドの総合含有量は100gあたりの鶏ムネ肉で1,223mgに対し、豚で900mg牛肉では260mgです。
そもそも私たちの疲労の正体は、活性酸素とファティーグ(Fatigue Factor)FFタンパク質です。
ファティーグとは疲労という意味で、このタンパク質は疲労をはやめ、それが改善されずに長期化されますと慢性疲労となり、肉体だけでなく精神的ダメージも大きく、脳細胞の回転も鈍ります。
さらに私たちの細胞では、活性酸素が絶えず発生し疲労原因にもなりますが、まして運動選手のよう激しく酸素を必要とする細胞は、さらに活性酸素を多く産出し疲労度が高まります。
その活性酸素でできる疲労原因の一つにヒトヘルペスウイルスがあり、乳酸やFFタンパク質などと相乗作用となって、細胞をさらに疲労させます。
これらすべての疲労物質に対し、鶏ムネ肉のイミダペプチドは対応し除去し、疲労を回復させる能力があります。
そのようにあまり評価されない鶏ムネ肉ですが、スポーツ選手のみならず、働きすぎのサラリーマン、疲労感が多い中高年の男女、疲労からか成績の低下した児童から学生まで、さまざまな料理法を使って鶏ムネ肉で疲労を回復してみましょう。
食品のなかでは最も安価で、効果がある疲労回復剤と思います。
とにかく1,000キロ以上飛び続けても疲労しない、渡り鳥のムネ肉の秘密を思い浮かべながら、鶏ムネ肉の味を吟味しましょう。