鳥インフルエンザと豚流行性下痢の発生

〜養鶏と養豚を襲った怖いウイルスの病気〜
(輸入豚肉、鶏肉と戦う安心安全の国産肉)

—渡り鳥が運んだ鳥インフルエンザウイルス—

4月14日朝、各局のニュース番組は一斉に、熊本県で発生した鳥インフルエンザのニュースを大々的に取り上げていました。

この病気についての改めての説明は必要ないほど、人間への感染も心配される恐ろしい、鶏のウイルス性伝染病との知識は大多数の人が持っています。

それだけに、たかが地方の養鶏場で発生した鶏の病気に全国の放送局がヘリコプターからの空撮中継も含め、多くの取材陣をつぎ込んで放送する事件であったのでしょう。

鳥インフルエンザは「法定伝染病」の一つで、行政は法的処置を実行して病気拡大を防ぐ務めがあり、今回も発生農場と同じ経営系統の農場含め、報道によりますと11万羽以上のブロイラー鶏を強制的に殺処分し埋没したようです。

というのも、この農場が震源地となって、感染鶏からウイルスが各地に伝搬し、連鎖的に大発生につながることを恐れ、ウイルス保菌の疑いがある同農場の生きている鶏を含め、早急に撲滅することが防疫の手段として分かりやすいからです。

同時に半径3キロから10キロ圏内の養鶏場の鶏肉と卵は、圏外に移動することを禁止しました。

例えが悪いですが、火事の火元になった鶏をすべてなくす、またその周囲はすべて危険があるので、火の手が広がらないよう封鎖する、まさに江戸時代の破壊消防の手段と同じ方法と言ってもいいでしょう。

これは疫学的な調査や、この農場に伝搬してきた経路の解明、防疫上の的確な処置と実行など科学的な処置と診断は後回しで、とにかく殺すことで感染リスクを取り除き、生産物の移動を禁止することでウイルスの伝搬を防ぐ非科学的な手段しかないというのが実情でしょう。

それだけこの病気のウイルス侵入経路と感染原因が掴みにくく、防疫の方法が難しい病気ということになります。

実際、なぜ唐突としてこの人里離れた養鶏場でインフルエンザが発生したのか、目下は誰もわかりません。

多くの識者は、渡り鳥によるウイルスの伝搬だろうとの見解を示しています。

私もその説に異論はありません。

過去この地域にインフルエンザの発生経験はないですし、ウイルスもいないはずですが、3年前にはお隣の宮崎県では突如発生、大きな損害を起こしていますが、その原因が渡り鳥による感染と結論つけられています。

しかしどこから渡ってきた渡り鳥か?となると断定は難しいです。

また渡り鳥と言っても、北方、南方から、日本には沢山渡ってきますので、どこから来たウイルスかの判定は難しく、またそれがわかったとしても、対策がなかなかありません。

また渡り鳥が鶏舎の中に直接飛び込んで、ウイルスを感染させたとも思いません。

となると渡り鳥の落とした糞などを、ついばんだ地域に生息する野鳥かネズミなどが鶏舎に持ち込んだのかもしれません。

あるいは知らないうちに、その糞が農場管理者の衣服か履物について農場に運び込まれたか分かりません。

今回もウイルス株の遺伝子解明を待って、どこから飛来したものかの推測をしたようです。

このウイルス株は今年韓国で発生したH5N8株と判定され、韓国からの渡り鳥説が有力となりましたが、あくまで状況証拠で確定できません。

ところで原因ウイルスが分かったといっても、そのことは養鶏家にとってあまり意味がありません。

なぜならば、ウイルスが分かっても、それに対応するワクチンも薬品もないからです。

感染を防ぐ方法は、渡り鳥はおろか野鳥も野ネズミも絶対侵入しない完全密閉型の鶏舎を作ることが唯一の防御対策です。

しかし建設には膨大なコストがかかり、それを償却するだけの利益はなかなか出ません。

まして目下、海外から安い鶏肉の輸入攻勢にさらされている日本の鶏肉産業だけに、コスト引き下げが生き残れる絶対条件で、産業として防疫だけに大きなお金をつぎ込む余裕はないようです。

そんな苦境の産業ですが、日本産の鶏肉の安全安心は守りたいと、抗生物質はじめ薬剤を使用しない薬品残留がない鶏肉と、食中毒を起こす鶏由来の病原菌、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌などの汚染肉を作らない努力をしています。

ただし薬を使わずに、無薬チキンを作る努力は、病原菌感染の危険と隣り合わせです。

そのように懸命に頑張っている養鶏場へのインフルエンザ感染ですから可哀そうです。

ただ今回は行政の命令処置で、全群殺処分ですから、殺した鶏への金銭的補償はあるでしょう、それは法定伝染病の規定にのっとた処置です。
—日本全土に発生したウイルスによる豚流行性下痢症—

ところが、昨年10月から九州南部で発生し、いまや全国に大々的に感染被害をもたらしているウイルス病の「豚流行性下痢(PED)」で何万という子豚が死亡、淘汰されていることを読者はご存知でしょうか。

畜産界全体から見ましたら、この損害の方が鶏インフルより圧倒的に大きく、また経営的に養豚農家を追い詰めますが、被害豚への金銭的補償はありません。

この病気は法定伝染病でなく、届け出伝染病の規定の中にあるので、行政の指導で殺したり豚移動禁止の命令はなく、当然養豚場の管理マインドに任せます、ですから補償はありません。

病気の発生があったら迅速に当該家畜保健所に届け出る義務がある病気で、保健所は臨床診断と疫学調査のうえ病気の判定と、適切な対策を指示しますが、それ以上ではありません。

この病気のウイルスはことに生まれたての仔豚に強烈な下痢を起こさせ、脱水症状で死んでいきます。

哺乳中の豚(㈵日−21日)の死亡率は、50%、あるいは100%という激しいものです。

それだけに仔豚に発生したら、適切な治療法がなく、みすみす死ぬのを待つだけです。

当然親豚にも、30日週齢以降の肥育豚にも感染しますし、下痢や嘔吐で食欲不振があるが、大きくなった豚は抵抗力があり発育は遅れますが、死亡は少ないようです。

たまたま私は昨年12月中旬、南九州宮崎県の養豚場を何軒かを訪問しましたが、奇しくもこの病気の発生現場付近を巡回することになりました。

すでに鹿児島にこの病気の発生があり、その感染が宮崎県に飛び火した日でした。

「1週間前は鹿児島の2軒だったが、今週は宮崎の養豚場にも感染、おそらく10農場ぐらいは発生するだろう」と、面会した養豚会社の社長は深刻な顔でした。

そのとき面会予定の大手養豚場の獣医は、PED発生対策のため緊急な獣医師会が開催され、面会できませんでしたが、同じ農場のサブ獣医の話では、潜伏期間が14日ある病気のようで、子豚が生まれてすぐに症状が出ているのは、母親の胎内で感染したことになります。

何れにしろ難しい病気で、唯一母豚にワクチンを接種することで、子豚に移行抗体を持たせる防御法しかないようです。

ところが日本国中で大発生するまで、ほとんどワクチン接種はなされていなかったという現状です。

というのもここ20年近くこの病気の感染は皆無で、その心配がなかったのが要因です。

これは油断です。

昨年3月頃からアメリカで大発生し、30州にまたがり6,000近い農場が感染し400万頭を超える被害の事実があり、また中国では2010年以降継続的に全国で発生していましたし、お隣の韓国、台湾、東南アジアでも発生の事実がわかりながら、対策が取られていなかった、まさに油断です。

養豚関係の報道は、PED発生ニュースよりも、TPPの豚肉輸入の関税の有無の方が関心が高く、報道機関もそんなニュースばかり流しました。

さらに法定伝染病の口蹄疫や鳥インフルエンザの方が話題性があり、殺処分などで華々しく関係者が、白衣で動き回る方が映像になりやすいのでしょう。

しかし実際今回4月19日現在で、31の道と県で発生し、感染豚数は約30万頭、死亡淘汰で8万頭の数字が農水省に届けられていますが、その陰で勝手に処分したものも考えられ、実際の損害はもっと大きいと思われます。

さらにまだ完全に終息していませんので、今後この数字は残念ながら伸びます。

仔豚の被害が多いですが、仔豚の価格評価は小さいので、直接的金銭損失は少ないように見えますが、もし8万頭の豚が、肉となって市場に出る前提で計算をしてみますと、枝肉で5千万キロの生産損失で、金額で200億円以上となります。

また死亡しない感染豚の生産効率の悪化や、母豚の新しい仔豚生産中止、また防疫対策にかかる費用など計算に入れますと、おそらくこの3〜4倍の損失となるでしょう。

さらに潜在的な損失は、仔豚生産のサイクルが完全に狂い、全国で何百万頭もの生産減になり、これにより豚肉価格の高騰は避けられないかもしれません。

ただし日本の豚肉の50%は輸入肉が占めていまして、日本市場が高いとなれば、アメリカなどから輸入洪水となって相場を冷やします。

しかし今回は輸入先の大手、アメリカ、カナダも同じPEDの被害を受けていますので、生産減となり輸出余力があるか分かりません。

しかしこれは一時的なもので、アメリカ、カナダからの輸入豚肉は恒常的に、TPP締結以後は雪崩を打って日本市場を蹂躙するでしょう。

今までは関税の障壁で国内産業を守ってきましたが、目下関税率の相違を調整する交渉が進み、大幅な引き下げとなったら、今後の日本の養豚産業はさらに厳しい道を歩かなくてはならず心配です。

そのうえPEDのような病気の侵入で大損害を出しては、たまったものではありません。

残された道は、鶏肉同様抗生物質を使わない、安心安全な豚肉生産と、美味しい新鮮な国産肉の優位性で勝負することが肝要ででしょう。

今回のPED感染で私どもへの朗報と言えば、私たちが販売している生菌酵素製剤が、下痢症状の緩和と早期の病気回復に役立ているとの、感染農場からの報告があり、薬品で解決できないウイルス感染症の豚の、腸管健康回復にプロバイオティック(生菌剤)が有効なことが考えられました。

さらに鶏も豚も健康は消化管の健康が第一番、腸管を健康にし腸管免疫を高めることで、薬を使わない生産物を作る運動を推進しています。

それが唯一の輸入肉に勝つ方法と信じているからです。

最後にお断りしますが、この豚流行性下痢PEDウイルスは、人間には何の影響力を持ちませんので、ご安心ください。