〜中国産の期限切れ鶏肉チキンナゲット騒動〜
(安いことがすべての、輸入食品の安全性を再度考える)
中国上海の食品工場で製造したチキンナゲットに、
廃棄する腐敗直前の原料が混合されていたニュースが7月の下旬放映され、
やれやれまた危険な中国製食品か、いい加減にしてほしいとの思いでした。
このニュースで驚いたことは、
このチキンナゲットが世界的に有名なファストフード大手の日本店と、
有名コンビニエンスストアーで販売されていたことです。
食の安全が叫ばれ、消費者の食の安全性に対する関心が高い今日、
日本を代表する企業の商品チェック体制と、
製品に対する責任感はどうしたのかとの疑問も感じます。
中国製品を取り扱い販売するには、この程度のリスクは先刻承知であったでしょう。
しかし製造ラインに腐りかけの鶏肉が混合される動画が、テレビ画面に映し出され、
その作業担当者から「別に死ぬようなことはないので」とのコメントには、
取り扱っていた日本企業も唖然としたことと思います。
もう一つ驚いたことは、こんな生々しい現場を取材した地元テレビ局の報道姿勢があったことです。
今まで中国製品の安全性が問題になったり、食品被害が出たり、
検査結果違法物質が検出された時でも、その実態の現場はわかりませんでしたが、
製造現場の不正を告発する撮影は、証拠としては第一級です。
これでは中国の政府当局も、工場経営者も弁明弁護の仕様がありません。
逆に工場責任者を逮捕して、原因究明とその責任追及並びに不正に対する懲罰にと発展せざるを得ませんでした。
まずこの快挙に喝さいを送ります。
以前から問題を起こし続けている中国食品製造現場の不正の実際を、
中国のテレビ局そのものが、公にした勇気にも感心しました。
行政と企業の癒着、報道機関と政府または企業とのもたれ合いなど、
企業内の内部告発以外で、外部機関の調査で実態が明るみに出ることは中国では希有のことだと思います。
私の体験の中でも、中国の食品会社と中国の検査機関との関係を知る機会が何回かありました。
だいぶ前になりますが、養鶏の技術指導で上海の食鶏処理場を訪問した時のことです。
屠体処理した生の丸鶏が、土足で歩く土間コンクリートに並べているのを見て
「土間はバクテリア汚染の危険があるので、
衛生的な箱を作りその中に氷と一緒に入れてください」と注意した時
「調理して食べるから、危険はない」との返事と
「政府の検査官も別に問題にしていない」には、
後の言葉が続かなかったことを思い出します。
その時、この国の食に対する検査機関と製造者の標準的常識が、
私たちの常識の違いをそこに見ました。
確かにバクテリアの汚染は熱処理すればその危険はなくなりますが、
生鮮食品として食べる人に、安全を送るという企業モラルの考えは皆無のようでした。
笑い話ですが「中国で生活するには、毒の食品を食べて長生きできないか、
その毒を嫌って食べないで餓死するか、どちらの選択しかありません」と
中国の知人が冗談で言った言葉が忘れられません。
ということは「期限が過ぎた原料を混合しても、フライ処理すれば危険がなく、
味も変わらないから問題ない、それよりも価格的に安いことがお客さんの利益だ」
の理屈が常識のようで、その常識の中で生きていくには、
少しぐらいの危険は我慢するのが、中国の消費者の常識なのかもしれません。
この安く作るために、廃棄直前の鶏肉を使わざるを得ない事情があったとしたら、
安い商品を強要した発注者の方にも責任があるのでしょうか?。
振り返ってみますと、こんな事態になった本質はどこにあったのでしょう。
以前、これも中国訪問時の経験談ですが、
中国からの輸入野菜に農薬が残留していることが問題になった時
「きれいなそろった野菜を作ることが条件で、
虫食いや病気で見た目が悪い野菜は日本人が買わないから農薬を使わなくては」
との返事があったことがあります。
さらに「その農薬は日本製ですよ」と追い打ちがかかりました。
また「中国では農薬を使わないと、農作物は収穫できない」と
一般の消費者は認識しているようです。
ですから、かなりの家庭では野菜などに残留する農薬を洗浄する農薬洗浄剤が
使用され、表面に付着している農薬は洗い流すようです。
このような生産体制になったことは、中国建国からの歴史的なもので、
農業の発展が国の力であり、国民への食料供給が第一の生活安定だとの考えが、
新国家共産主義の原点にあったことから始まります。
農産物を生産していた人民公社の評価は、とにかく収穫量の多寡で決まるので、
化学肥料と農薬による生産競争へとなだれ込み、食の安全性など見向きも
されない習慣が続いたことが、今日の安価で生産量第一の思想背景ができたと見ます。
とにかく安全性より収穫量が大切で、大量に生産すれば価格も安くなり、
その安さに魅力を感じた日本の食品加工会社、レストラン、スーパーマーケット、
農作物販売会社が、安い中国食品に群がったのです。
その背景に、日本の企業同士の価格競争と市場占有競争がありました。
さらに中国食品が日本に大量輸入されるようになった背景は、安くて形さえ整い、
製造者や販売者の企業名が有名なら、日本の消費者は何の抵抗もなくその商品を買い求めました。
今回の問題が起きて、報道機関が中国産食品を使用しているレストランチェーンを
調べたら、ほとんど有名な外食店舗が、
全てではないが何らかの料理の一部に使用している報告がありました。
しかし、どの店舗でも、メニューに中国産使用とは表示していません。
おそらく、今回のチキンナゲットが、
中国産であったことを知っていた消費者が何人いたでしょう。
消費期限切れのチキンナゲットのテレビ放送を見て、
中国産と知ったのではないでしょうか。
このように、安いから使う、安いから価格競争ができる、
安いからお客が満足する、安いから利益が上がる、
日本の企業にも安いものへ対する羨望がなかったとは言えません。
さらにその安さを最も歓迎したのは、中国食品の安全性をたえず疑っている、
ほかならぬ日本の消費者です。
ですから企業の選択も、消費者の要求に対するサービスと、
企業の利益獲得のためだとしたら、
安いものを求めて中国産を扱ったことを間違った経営手段とは言えません。
ただ問題なのは、その安さを提供する中国の生産体制と、
中国人の食に対するモラルと常識が、
日本企業が考えている常識とは、少し違うことをどれだけ認識していたかです。
ご承知のよう、日本の食料自給率は40%に達しないといわれます。
中国だけでなく、世界のあらゆる国から食料は輸入されます。
これらの安全性はどうなのでしょう?中国だけの問題とは思いません。
私たちは仕事柄、諸外国の鶏肉や豚肉などの生産状況を熟知しています。
薬品残留の危険、有害微生物の汚染などが心配です。
この薬品残留と、有害微生物汚染を一挙に無くせる有機的生菌飼料(プロバイオティック)を開発し、
日本をはじめいくつかの国にも紹介しています。
せめて日本人が食べる卵、鶏肉、豚肉、牛肉、牛乳からは
危険を無くそうとのポリシーで努力しています。
ただ残念なことにこの有機製剤を、中国へは紹介していません。
さて最後に、8月の初旬、今回の事件を中国政府と日本政府が話し合いました。
その席で中国側から、問題を起こした上海の企業を取り調べた結果
「日本向けに出荷した商品には、消費期限切れの原料は使用されていないので安全です」の
コメントが発表されました。
さぁ、それが事実だとしたら、カビの生えた期限切れ原料の不正商品は、
どこへ行ったのでしょう?
中国政府の発表を知った、中国人はツイッタ—で
「日本向けは安全、期限切れ商品は中国人の口に」
「よいものは輸出、悪いものは国内販売か」
「毒入りは中国人へ」
「中国人のメンツにかけてよいものだけを輸出する、日本人はそれを理解しろ」
「輸出製品は安全、日本人は安心だ」
などなど自虐的なギャグも含めてにぎやか。
ところで、この期限切れ原料のニュースが流れた結果、
日本のファストフード店は問題のチキンナゲットの販売取りやめは勿論、
その影響で売り上げは大幅に落ちました。
面白いことに、中国の同じファストフードチェーンで、
同じチキンナゲットが飛ぶように売れたというニュースが入りました。
なぜか? それは期限切れでも間違いなく鶏肉を使っていた、
他の訳のわからない雑肉でなかった、この報道が証拠になって、
正真正銘なチキンナゲットということで、売れ行きが伸びたようです。
所変われば品変わり、価値観も変わります。
この辺に中国食品に対する、中国人の常識の原点があるようです。