サルモネラ菌

〜全世界で発病させる食中毒菌の代表〜

(汚染鶏卵は養鶏場の責任、4500万円の賠償金)
3年ほど前2011年8月、宮崎県延岡で発生したサルモネラ食中毒事件で、死亡した70歳代の女性の遺族が、死亡原因になったサルモネラ菌汚染の鶏卵を販売した、生産農場を相手に訴えた裁判が、今年の3月結審しました。

被害者側の訴訟通り、判決内容は加害者の農場の有罪となりました。

その決め手になったのが、鶏卵のサルモネラ菌汚染が立証されたからです。

この事件は2011年8月2日に食料スーパーから買った卵を、8月5日に納豆やオクラと混ぜて夕飯に食べ、一家3人が中毒症状となりその中の1人が死亡した事件です。

食中毒の原因が生の鶏卵にあったと判断した遺族は、食べた卵の殻と、冷蔵庫に保管していた未使用卵と包装されているパックを保健所で検査してもらい、そのすべてからサルモネラ菌が検出され、生産農場の衛生管理に問題があったと断定できたのです。

なお判決には、生産者責任の重大過失を認め、被害者に4500万円の賠償金を支払うよう命じました。

この判決は養鶏業者に強い衝撃を与えました。

それはほとんどの養鶏場もサルモネラ菌皆無と言えず、それを鶏肉から無くすことは、かなり困難であることを知っているからですからです。

そもそもサルモネラ菌は鶏卵だけでなく、鶏肉にも豚肉にも牛肉にも、時により野菜や果物、加工食品などからも検出され、さらにペットの犬、猫、小鳥なども危険ですし、ことに爬虫類の蛇やカメなども多く保菌します。

野外に生息する、野ネズミ、野鳥、ゴキブリ、ハエなどもサルモネラ菌の運搬動物で危険です。

種類も2000種以上あり、その中で鶏卵や鶏肉から検出されるものは20種ぐらい、なかでも腸炎サルモネラ菌(S.Enteritidis)とサルモネラネズミチブス菌(S.Typhimurium)、サルモネラインファンテス(S.Infantis)が多く感染しています。

人間の法定伝染病の腸チブス、パラチブスも同じサルモネラ族です。
日本養鶏協会の発表では、現在の鶏卵は0.03%ぐらいの陽性率と言います。

農水省の発表は0.2%と食い違いますが、いずれにしろ10年前から見ると100分の1ぐらい少なくなっています。

この日本の陽性率は非常に優秀で、汚染の少ない優秀国と言われるデンマーク、スウェ—デンでも1%の汚染率ですし、アメリカやEU諸国も2−5%ぐらいの陽性率、あるアメリカの研究機関の調査では中国やベトナムなどは30−50%という報告もあります。

日本が少なくなった要因は、衛生管理に対する生産者の熱意と、サルモネラワクチンの使用もあったからでしょうが、生卵を醤油と一緒に混ぜて、炊き立ての熱いご飯にかけて食べる「卵かけごはん」に適用する卵を作ろうとの目標も馬鹿にはできません。

ただし日本養鶏協会の0.03%の汚染率と言っても、1万個当たり3個の陽性卵で、100万個ですと300個になります。

もし1日1000万人が、好きな「卵かけごはん」で生卵を食べたとしたら、3000人の人がサルモネラ菌汚染の卵を食べたことになります。

1年間を統計的に見ますと、100万人を超える人が汚染卵を生で食べたことになります。

だがサルモネラ食中毒の患者はそこまで出ません。

1990年代は10000人からの感染が報告されていましたが、最近は300人台です。

というのは、卵が汚染されていても、菌数が少なければ食中毒症状は出ません。

少なくとも菌数が10万個から100万個ぐらいにならなければ、劇症感染にはなりません。

日本は1998年に食品衛生法が改正され、鶏卵の安全の表示基準と規格基準が取り決められ、外気温度と低温流通と低温販売施設などの条件により、消費期限と賞味期限が設定されました。

現在日本の現状は、生まれた卵は傷卵や卵の中に異物があると光で透視して除かれ、正常なものはすぐに塩素系の消毒液で洗浄され、大きさ別に選別し10個入りのプラスチックパックに詰め込まれ、冷蔵室で管理する、パッキンググレーディングセンター(包装規格選別工場)で出荷まで貯蔵されます。

出荷も生産された当日か翌日には、保冷車でスーパーマーケットに運ばれ、店先では保冷棚に陳列され販売されますので新鮮です。

また春夏秋冬の温度差により、表示する鶏卵の賞味期限が決められます。

冬に生産された鶏卵は10℃以下で流通、販売管理されれば57日間。

夏の暑い時期の卵は、平均温度27℃として16日間の賞味期限。

春と秋は平均20℃として25日間と決まり、パッケージに生産者名で賞味期限が印字されています。

ただし政府は生で食べることへの危険性も表示し、過熱を推奨しますが、日本の卵好き人種は低温流通され規格が守られている、産卵から2週間以内の卵は安心して食べます。

というのも、汚染卵も15℃以下の温度で保管された卵は、菌が存在しても卵の中で増殖していないことを知っているからです。

それゆえ、宮崎で起きたサルモネラ感染事件は、すでに養鶏場で強度感染されていたか、または8月の暑い盛り割卵してから食べるまで、かなりの時間が経過し菌が増殖していたかどうかです。

ただ今回は、冷蔵庫に保管されていた同じ卵からもかなりの数の菌が検出されたことが、絶対的証拠になったようです。

さて、ご存知のように卵は生き物です、卵殻には細かい穴があり、そこを通して呼吸をしています。

もし雄の精液が掛かった受精卵なら、38—40度で21日間保管すれば雛が誕生する生命体です。

温度が30度を超えた条件になると、サルモネラ菌が繁殖する培地としては、タンパク質の塊で栄養充分で水分もある卵の中は最適です。

それだけに温度管理が大切です。

ところが東南アジアや台湾、韓国などの卵の流通状態を見ますと、卵トレーに入れたまま箱にも入れず、覆いもしないでトラックに積み込み、太陽が直接卵に当たり、温度が上昇するのも構わず運搬し、そのまま食品店の店頭にむきだしのままに置かれて販売されています。

低温管理がされない流通と販売システムです。

生まれたての卵にサルモネラ菌が10個入っていたとしても、生まれてすぐに低温管理されて、貯蔵運搬されれば、菌は増えませんが、真夏の30℃超えた温度で10−20時間経過しまと、菌数は驚くほど増えています。

菌は30分に一回ぐらいの割合で倍増しますから、10時間経過で1千万の菌数になりますから、生で食べたら完全に急性中毒になります。

もしサルモネラに感染しますと、潜伏期間の12時間を過ぎると腹痛が始まり発熱嘔吐、黒緑色の水様状態の下痢と時には粘血便ともなります。

これらの症状はサルモネラが腸内で繁殖するとき出す毒素のエンテロトキシンが原因で、この毒素のショックで死亡するケースが多いのです。

ただし日本人はじめ東洋系の人は、サルモネラ中毒には強いのか病院まで運ばれる中毒患者が少なく、さらに死亡者も少ないです。

統計的に掌握していないのか、少しぐらいの症状では、病院に行かず市販薬で治してしまうのか、発病が統計的には少ないです。

もっとも加熱して食べるので少ないかもしれません。

しかし同じよう生卵を食べる習慣のない、欧米の発生率はすこぶる高いです。

アメリカの病気管理予防センター(CDC)の報告を見ますと、確認できたサルモネラ食中毒で19000人が発症し、そのうち380人が死亡しています。

同じCDCの2012年の発表では、10万人当たり16.42人のサルモネラ感染と言いますから、3億5千万人口で考えると6万人近い数字になります。

未確認の患者は恐らく120万人、450人ぐらいが死亡していると推定している報告もあり、治療に掛かる費用と人的マイナスを考慮すると、3億65百万ドルの損失になると発表もしています。

ヨーロッパ諸国も同じようにサルモネラ対策に頭を悩まし、サルモネラ(ST、SE)保菌種鶏は淘汰するよう規制がありますが、なかなかその通りにはいかないようです。

個人的見解ですが、日本でこのサルモネラ菌が鶏から発生するようになったのは、戦後ヨーロッパから輸入された種鶏からと考えていますので、そもそも欧米諸国が菌の輸出拡販国だと思います。

それはさておいて、とにかく養鶏場ではサルモネラ汚染を防がなくてはいけません。

その中でことに種鶏場の責任は重いので雛がサルモネラ菌を持参して、採卵養鶏場やブロイラー生産者に販売されないことが重要です。

これも手前味噌ですが、15年前ごろ鶏卵が原因でサルモネラ中毒患者が続出したころ、薬を使わずサルモネラを抑制する生菌飼料を考え、台湾のある研究所にお願いし開発した生菌飼料が、日本ではかなりの成果を上げたと自負しています。

こんな目に見えない地道な努力は、一般にあまり評価されないが、とにかくきれいな雛と卵を作ろうという気持ちは今でも継続しています。

いま日本はワクチン使用が増え成果も上がっているようですが、根本的には皆無になりません。

基本的には養鶏場に「菌を入れない、増やさない、やっつける」を実行していかなくてはいけません。

その暁には、サルモネラだけでなくカンピロバクター、病原性大腸菌の被害が皆無になるでしょう。

それと畜産物も食品であり、消費者に危害を加えない認識を強く持った生産者が増えてくることを願います。

ことに卵は安い商品の代名詞「物価の優等生」ですが、安全安心のためにかかったコストを消費者が認めてくれることをお願いしたいものです。