人畜共通感染症の恐ろしさ(その2)

〜可愛い愛犬や猫ちゃん、小鳥が危険宿主〜
(怖いカビ毒は生活環境の周りにたくさん)
小学6年生の頃「田んぼや山の中に「ツツガムシ」と言う小さな虫がいて、
刺されると病気になるから気を付ける」と担任の先生から教えられました。

この「ツツガムシ」という虫の存在が、
農作業中や山林原野を歩いているときふと気になり、
ここは大丈夫なのかと心配もしたものです。

そんなこともあり「つつがなくお過ごしですか」と手紙で安否を尋ねる常套句は、
このツツガムシに侵されないでいることが語源と思い込んでいましたが、
安否を気遣う言葉は「ツツガムシ」とはまったく関係なく、
丈夫で病気をしない状態を日本語で「恙無く(つつがなく)」と表現することと後に知り赤面しました。

しかし実際は「ツツガムシ病」は列記として存在しているのです。

野ネズミに寄生しているダニが持っているウイルスと細菌との中間のサイズの「リケッチア」菌で、
そのダニが人間に寄生、咬まれると感染する、
多分に風土病的色彩が強く、日本でも過去は東北地方に多く発症が見られた病気のようです。

高熱が出て全身に紅斑ができ、重症感染者は臓器不全に陥る危険もあります。

ところが最近はペットのイヌ、ネコ、プレーリードックなどにもこのダニが寄生し、
それを通じ日本だけでなく東南アジア、オーストラリアなど外国を含めこの感染症の発病があるようです。

このリケッチアによる感染症はほとんどがダニなどの吸血昆虫が媒介し、
これがペットに寄生し、ペットを介在して人間に感染するようです。

ことに今のペットは家族の仲間、飼い主と濃密な接触が日常の行為、
室内で飼育されている状態が多いので危険がいっぱいです。

口移しで餌を与えたり、一緒に寝たり、抱きしめて頬すりしたりは、
ダニやノミを介さなくても、ペットが持っている病毒菌はたやすく飼い主を感染します。

また糞や尿の処理が悪く部屋を汚染させていると、部屋中が感染媒体にもなります。

実際、真菌の「イヌ、ネコ糸状菌症」イヌ、ネコの線虫による「回虫症」
イヌ、ネコにも罹病する「結核」「黄色ブドウ状球菌感染症」「連鎖球菌感染」
などペットに感染する細菌や寄生虫は、たやすく人間にも感染します。

ネコの爪のひっかき傷で感染する「猫ひっかき病」も、
ネコに寄生するダニによっても感染しますがこれもリケッチアです。

ひっかかれたところ、ダニに咬まれたところは、
赤く腫れ熱が出て全身倦怠などの症状も出ます。

同じようネコからの感染が目立つものにリケッチアの「Q熱」があります。

ネコは無症状ですが人間に感染しますと、発熱、疲労感、
関節痛などインフルエンザと見間違う症状が出ます。

「日本紅斑熱」もマダニで、イヌ、ウサギ、ネズミなど媒介して感染、高熱、
頭痛、赤い斑点が皮膚に発生する病気です。

人に感染すると脱毛になったり、皮膚にはかゆみが発症する「疥癬症(かいせん)」
もイヌ、ネコが脱毛を起こし、かゆみを発症し毛並みが乱れる症状です。

これもダニを通じて感染したもので、
ペットと飼い主の強度接触がもたらした双方に発症する疥癬症です。

それやこれやで、可愛い愛玩動物があなたの命を奪う危険動物に変身しないよう、
日ごろのペットの状態観察が大切で、
またペットの飼育環境を清潔にすることが重要です。

ダニではないが同じ吸血昆虫のシラミ(虱)によって伝染するリケッチアの
怖い病気に「発疹チブス」があります。

第二次大戦が終わり、戦場から引き揚げてきた復員兵がこのシラミを日本に持ち込み、
衛生状態の悪い戦災浮浪者など風呂にも入らず、
汚れたままの生活を余儀なくさせられていた人たちに、大量発生した記憶があります。

このシラミが保菌した「発疹チブス」菌に感染しますと、
高熱と全身に赤い発疹ができ、最悪は死亡することも多く、
シラミ対策にいまは使われませんが有機塩素系殺虫剤「DDT粉剤」を
頭からかけられた浮浪者をずいぶん見ました。

わたしも中学生のころ駅前で、駐留軍のアメリカ兵に強制的にこの粉剤を
あっという間に掛けられた経験があります。

有機塩素系は危険薬物で発がん性があり、今は製造も流通もしていませんが、
そんなことを知らない当時、シラミ退治の特効殺虫剤で有難がられました。

ただしこの発疹チブスは、イヌ、ネコ、ネズミなどを中間宿主にしないで、
人間そのものが宿主で、シラミが媒介昆虫となり、人から人へ感染を拡大させただけに、
終戦直後の混乱した世情を一層困惑混乱させました。

リケッチアではありませんが小さな細菌のクラミジアよる「オウム病」もあります。

これの媒介者はオウムだけでなく小鳥など鳥類が感染する病気で、
これも人に感染しますと、インフルエンザ症状の肺炎、
気管支炎の症状が顕著で発熱倦怠感など、厄介な病気です。

カビの仲間の真菌(糸状菌)も非常に危険な病原菌です。

病原性の危険な真菌の代表は「アスペルギルス」「ガンジダ」「クリプトコッカス」「白癬菌」などですが、
これらのカビ菌がペットに寄生しダニを通して感染する病気に「皮膚糸状菌症」があります。

「かいせん症」と違い、イヌ、ネコにはあまり症状が出ず、
人の皮膚に円形の紅斑ができてかゆみを発生させます。

この夏私の脇腹にできたかゆみを伴った赤い発疹を医者は、
この真菌症の「白癬菌のたむし」ではないかと診断し、皮膚を採取して培養、
顕微鏡検査を2回にわたって行ったが、菌が検出されなかったようです。

しかし、真菌対応の塗り薬で治ったのですから、
カビ性の皮膚炎だったのでしょう。

ただし、我が家はペットもいないし、
接触した記憶もないので感染原因がわかりません。

ちなみに、この白癬菌は「水虫」、頭に出る「しらくも」、
股間にかゆみを起こす「いんきんたむし」などがあります。

「クリプトコッカス」もカビ細菌により鳥類(ハト)や、
イヌ、ネコに感染保菌が多く、この動物を通して人に感染しますと、
鼻炎、肺炎から最後は脳炎にまで進行するので注意がいります。

「アスペルギルス」のカビ毒も困ります。

私も養鶏場を経営していた昔、同業養鶏場でこのカビ菌で鶏が呼吸器病を発生し、
大きな被害を出した現状を見ています。

この同業の友人は、飼料タンクに発生したこのカビ菌が鶏に感染したことも知らず、
鶏の管理を続けたので、いつの間にか彼の肺に浸潤し、
気管支炎からカビ性肺炎になってで長期間通院するようになりました。

餌に発生するアスペルギルスのカビの恐ろしさの代表が、
青カビの「マイコトキシン」の毒素です。

これを食べた家畜や鶏は、消化器官臓器に大きなダメージを起こし死亡しますが、
人間にもこのカビ毒は死亡事故を引き起こします。

このようなカビ菌は私たちの周りにたくさん存在し、酒を造ったり、
醤油や味噌の発酵に役立つ善玉有能カビもアスペルギルスの仲間で、
また青カビから発見された抗生物質「ペニシリン」はことに有名です。

ところが巷に跋扈する真菌類のカビは、肺炎や皮膚炎を起こす悪玉が多く、
免疫力や抵抗力が低下した人や、乳幼児などには容易に感染、アレルギー症状を含め、しつこく病状を発生させます。

また生息場所も土の表面や土壌中、あるいは植物や動物と食物、
そして建物から部屋の中、風呂場からキッチンなど湿気の多いところは大好きであらゆる所に生存します。

またカビはダニの好物で、それを餌にダニは増殖、
そのダニはカビ菌を持ったままペットを経過しなくても、
あらゆる機会に直接的に人間に被害を与えます。

土壌と言えば土壌菌の中にも怖い菌が潜んでいます。
代表的なのは「炭疽菌」と「破傷風菌」で、
ともに人畜共通感染症で同時に家畜の法定伝染病として届け出を必要とする伝染病です。

「炭疽菌」は空気の好きな芽胞菌の「バチルス属」で強い菌です。

草原の中で芽胞(カプセル)の中で長期間生存も可能で、
牛や羊などの草食動物のお腹の中で繁殖し、
排泄物で土壌と草むらなどに循環されています。

「炭疽菌」が動物に感染しますと、敗血症を起こし死亡率が高く、
さらに動物を通して人間が感染しますと、まず皮膚に炭疽菌が付着し炎症を起こし、
リンパ腫瘍から最後は敗血症で生命の危機にもなります。

「破傷風」は「クロストリディウム テタニ菌」による毒素で、
強烈な症状が起きる感染症です。

この菌は空気の嫌いな芽胞菌で土壌の中にかなりの割合で生息し、
環境変化にも強い菌です。

ことにこの菌は傷口などから感染しますと、発熱から脳、脊髄の神経を犯し、
筋肉の緊張、顔面硬直麻痺を起こす神経毒素により到死率が高いです。

家畜も同様な感染経路と症状で、死亡率が高いのが特徴です。

「破傷風菌」の仲間には「ポツリヌス」「ウエルシュ菌」など毒性の強い菌が多く、
鶏の腸管に発生するウエルシュ菌は壊疽性腸炎を引き起こし
多大な損害を与えます。

私もブロイラー鳥の原種農場を経営しているとき、このウエルシュ菌、
クロストリディウム パアフェリンゲンスに感染し、高価な原種系の鶏を多数死なせ、大損害を被りました。

これらの真菌と土壌菌は、動物と人間の生活圏の間近に存在し、環境変化にも強く繁殖能力も旺盛で、
隙あらば動物と人間にいつでも危害を加える共通の感染菌で、
撲滅が難しい菌です。

次回は細菌による感染症と特殊な人畜共通の感染病に触れましょう。