〜コレステロールは健全な体の潤滑油〜
(食では影響されない数値)
いまから20年前ぐらいになりましょうか、胆嚢と胆管の結石で、45日ほど入院生活をした経験があります。
この病気は、結石のたまった胆嚢を切除し、胆管を塞ぐ細かい結石を除去するため、開腹手術を行う外科治療必要で入院しましたが、それにしても45日はいかにしても長い方でした。
それだけ重症で手術が難しく、体力回復にも時間がかかったということです。
手術の翌日、集中治療室にいた私に、執刀した担当医師が来診に見え「胆石と言うより胆嚢と胆道を塞いだ細かい砂状の石がびっしりと、こんな状態で今まで問題が起きなかったのが不思議、これを胆道から除去するのに時間がかかって」
と説明し、砂と石がまじりあった黒い物体を入れたシャーレ—(ペトリ皿)を私に「記念にしてください」と渡しました。
「このような物質ができるのはなぜですか?」の質問に
「コレステロールですよ、胆汁の中にあるコレステロールがいつの間にか塊り、このような結石を作ります、大きいのはパチンコの玉を超えるものもあります」
健康診断の折々に、血液の中のコレステロールの高さを指摘され、注意を喚起された経験もあり、血中のコレステロールは気にしていましたが、まさか胆嚢と胆管にコレステロールの塊ができ、それが原因で臓器の一つを除去せざるをえなくなりとは想像しませんでした。
その後ある文献で、コレステロールの名称のコレ(chole)はギリシャ語で胆汁の意味、ステロール(stereos)は固まるの意味と知りました。
胆汁と胆石とコレステロールの関係は、名前の原型になっているくらいですから深いです。
そもそもコレステロールは血液にあるだけでなく、肝臓、胆嚢、胆汁とは密接な関係で、コレステロールを製造、貯蔵、消化液として、食物の消化活動に重要な役割を担っていたのです。
肝臓で作られた胆汁は同じ肝臓で作られたコレステロールにより胆汁酸となり、十二指腸経由で小腸大腸の中で脂肪の分解と消化活動に参加し、小腸の壁から再度吸収肝臓に運ばれ、さらに血液を通し全身に運ばれ、余分は肝臓に帰り、また再生される。
腸で吸収されない分は、食物の消化後糞便となって排出されます。
胆汁は黄褐色のピりルピンの色があり、それが糞便の色になります。
血液によって細胞に運ばれるコレステロールは、脂質のため水に溶解できないので、タンパク質に包まれリポタンパク質となって運ばれます。
その形はLDL(低密度リポタンパク Low Density Lipoprotein)となっていて、さまざまな人体の細胞や機能の有用活動の素材となりますが、余分にあるとかえって血管内で問題を起こし、時には悪玉と呼ばれもしています。
この余分のLDLを捕獲し、肝臓まで持って帰る役割のコレステロールがHDL(高密度リポタンパク High Density lioprotein)で、一般には善玉と呼ばれています。
この善玉とか悪玉とか言われたため、コレステロールのイメージが悪く、少し高いと血管にダメージを与える、高脂血症という有難くない病名をつけられ、薬を飲まされます。
しかしコレステロールは悪者ではありませんし、私たちの体の中では重要な働きをする物質です。
先にも述べた消化に必要な胆汁酸の原料ですし、体の中の細胞膜の原料、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、ステロイドホルモンの原料としても大切です。
さらにビタミンDの触媒、脳神経を守る神経鞘(髄鞘)の成分の一つですし、細胞間の伝達に関与するシグナルにも必要、細胞内外に物質を出し入れする仕組みにも関与、血管を傷つけない膜を作り損傷から血管を守る素材ともなります。
実例を挙げれば、70キロの体重の男性のコレステロールの量は140g前後で、そのうち32gが脳細胞、30gが筋肉、細胞の結合組織や脂肪組織に31g、皮膚に16gそして血液の中には11gが存在するというデータがあります。
そのように血液の中のコレステロールより、脳の活動と運動筋肉には大切なコレステロールなのです。
すなわち人体機能の重要な役割をコレステロールが行いますので、これが極端に低いと人体は機能しません。
ただ過剰になり、過剰分が血管内に残りそれが活性酸素により酸化しますと、脂肪質のため過酸化脂質となり、血液ドロドロで動脈硬化や血栓の原因になることが強く喧伝され、高コレステロール悪玉説が定着したのです。
たしかに過剰による弊害は否定しませんが、少し高いから数値を改善するために食事内容を変えたり、コレステロール低下薬を摂取するのはいかがかと思います。
まして日本食を中心にした食生活と日本人の体質と考えた場合、コレステロールからくる脳卒中や心筋梗塞はそれほど多いと思いません。
ご承知の方も多いと思いますが、コレステロールは70%以上人体(肝臓)の中で合成され、食べ物から入ってくるのは20〜30%前後です。
コレステロールを心配するあまり、食べたいものも食べない食生活をされている人がいますが、それほど神経質になる必要はありません。
日本の動脈硬化学会もコレステロールの量は食事内容によって変化はしないという発表もしています。
食事指針諮問委員会からも、コレステロールは過剰摂取を心配する栄養素はない、との報告も出ています。
よく過剰コレステロールの話題の中で、タマゴの話題が出ます。
確かにタマゴは、生命体を誕生させる栄養素がぎっちり詰まった食品だけに、孵化に必要なコレステロールは、食品のなかでは1個60gのタマゴで含有が420mgと高い方ですが、いまでは高コレステロール症とは関係ないということです。
然しながら医師の中には常套句の様に、タマゴを食べるのを控えてくださいと、患者に伝えていると聞きます。
それは1990年代の常識です。
逆に統計的な数字でいえば、低コレステロールの人はガンの発生死亡率が高く、また脳卒中の危険が高いと言われています。
たしかに高コレステロールの人は心筋梗塞の発症がデータ的に多いです、ただこの人たちの多くが、生活習慣病との関係が関与しているようです。
肥満で脂肪過多、高血糖で糖尿病、高血圧、ストレス過剰、喫煙習慣がある人が、高コレステロールの場合、加齢が重なると動脈硬化から心筋梗塞、脳梗塞のリスクが増えているようです。
こんな症状の人が、コレステロールが多い食材を摂取しますと、一層の高コレステロール体質にもなりやすいようです。
その結果、高コレステロールによる動脈硬化と血栓が問題になります。
その背景は血管内コレステロールの酸化です。
血管をきれいに、そして脂肪過多にしないのが最も望ましいですが、その脂肪を酸化させない生活習慣の食生活は大切です。
抗酸化力の強い食品、ことに緑黄色野菜やポリフェノール物質の多い食品の摂取を勧めます。
さて、コレステロール胆石を患った私のここ5年間の平均数値は、総コレステロール190、LDL120、HDL58です。
最近よく話題になる、LDL÷HDLの比率で25以上が高コレステロールで診断基準から見ると、20.7で良いと自負します。
その原因は、退院後開発した、大豆イソフラボンをバイオ処理した、抗酸化健康食品を毎日摂取していることと思います。
外国旅行中も自宅にいるときも、毎日続けることにより健康体質が出来上がり、それで84歳の今日まで現役で仕事ができると思います。
主治医からは定期的健康検査の結果を見て、理想的なコレステロール値でとほめられますが、コレステロールが理想値があるのかどうか知りません。
日本成人の平均コレステロール値は180から260のようです。
また長寿の研究者によれば180から200ぐらいの数値の持続が、健康でボケない長寿者が多いようです。
ことに老人になったら、エネルギーの代謝が低下しますので、食生活も変わりますしそれに伴い運動の機会も減ります、しかし体を動かさないといけません。
身体を動かすには決まった目標を持って行動する習慣が大切です。
運動もよし散歩もよし、家事もよし労働もよし、サークル活動からボランティア、お出掛けや通勤など、目的を持った行動が大切です。
このような生活を心がければ、コレステロールは正常値が持続できるでしょう。
心身の活動意欲が落ちたとき、コレステロールの数値とは関係なしに、身体活動能力と知能判断能力が低下が早まります、そうなると寝たきり老人になります。
ただそうならないためにも、健全なコレステロールの数値も目標の一つでしょう。