〜要介護寝たきり老人にならないために〜
(加齢と運動機能障害がロコモ症候群の最大原因)
最近、テレビの健康番組や、新聞の健康特集記事に「ロコモ」という言葉が、よく登場するようになりました。
健康に関心のある方も含め、この「ロコモ」なる言葉を初めて聞いたという人も多いと思います。
「ロコモ」とは「ロコモティブ シンドローム(Locomotive Syndrome)」の略語で、日本名では「運動器症候群」と称し、疾病による運動器官の障害や、加齢による運動機能の低下による、要介護状態予備軍になることを指す症状の一つのようです。
この言葉を多く耳にするようになったのは最近ですが、2007年日本整形外科学会から正式に「運動器症候群 ロコモ」と診断される病名として発表されてもいます。
一説にはメタボ症候群と並列の国民病として、予備軍も含め4700万人ぐらい、50歳以上の年齢では実に70%以上と推定され、誰でもがロコモになる危険性を持っています。
メタボは、消化器、循環器など内臓疾患、代謝障害を起こす潜在性が高い体質状態ですが、身体的な活動に不便な症候はあまりありません。
しかしロコモは、運動器に問題を起こす症候群で、日常生活で身体を動かす動作に支障が出て「生活の質 Quality of Life」が保てない健康状態ですので、これは深刻です。
運動をつかさどる運動器とは、骨格、関節、靭帯、脊椎、筋肉、腱、末梢神経などですが、これらが一体となって、脳からの命令によって反応し、人体の運動が行われますが、その器官の一つでも支障しますと、ロコモ状態になります。
この状態の深刻度が進みますと、腰痛、ひざ痛、筋肉痛、脊椎湾曲などで、自分一人では行動が出来ず介護が必要となり、やがては寝たきりの状態にもなるリスクの高い病気です。
なぜロコモ症候群になるのか、また潜在的に4700万人もの人が症状を持つ可能性がある理由は、結論だけ端的に言えば、人間が齢をとり運動をする身体機能が低下劣化するからと言えます。
これは老化で、生きとし生きる者の必然ですが、ロコモ症候群になる原因は加齢だけではありません。
若い人でも運動機能疾患が発生しロコモになります。
だからロコモは加齢による運動機能の衰えと二つに分かれます。
まず機能疾患の病名を上げますと、ひざ関節や股関節の「変形性関節炎」「関節リュウマチ」「脊椎間狭窄症」に代表する「坐骨神経痛」類、「骨粗しょう症」と「圧迫骨折」それと関連する「脊柱変形後湾症、前湾症状態(腰曲り、猫背)」「神経性筋肉のけいれん」「パーキンソン症」「筋ジストロフィー」「筋無力症」「筋力低下」によるバランス失調などです。
この多くは痛みと痺れを伴い、その症状により運動行動の障害にもなります。
一方加齢によるものは、前記に示したような典型的な病状はありませんが、加齢による「筋肉量と筋力の低下」「反応機能の低下」「持久力の低下」「瞬発力の低下」「巧緻性の低下」「視力聴力など官能機能の低下」「身体のバランス感覚の劣化」などで、運動器の反応が衰えた、「サルコペニア(Sarcopenia)」と呼ばれる細胞劣化がおおいです。
「サルコペニア」とはギリシャ語で、サルコが筋肉、ペニアが減少という意味で、加齢による筋肉量と筋肉力の低下を指し、身体を形成する全ての筋肉が劣化しその理由で、運動能力が低下する状態を示す言葉のようです。
それゆえサルコペニア症状が、ロコモ症候群の一部あるいは本質かもしれません。
加齢による身体機能の低下は、ランニング、ジャンプ、投てき、歩行速度と距離、ゴルフの飛距離、などスポーツ的運動能力の劣化だけでなく、視力、聴力、判断力、反応力、記憶力などの低下による、自動車運転能力に問題を起こすことも社会的迷惑となります。
日常生活では、靴下が履きにくい、足の爪が切りにくい、正座が困難、長時間立ったり歩いたり出来ない、立ち上がり困難、階段やバスの乗降に手すりが必要、まっすぐ歩けない、2−3キロの重さの荷物を持ち続けられない、などなどの症状は筋肉の硬直と、関節の硬化でしょう。
さらに具体的に、横断歩道の青信号中に渡りきれないなどは、歩行速度が衰えたロコモの代表です。
信号は1秒間に1メートルの速さで歩ける速度を基本にして設計され、健常人は1秒間に平均1.5メートルから1.8メートルの速度で渡り、ロコモになりますと0.8メートル以下といことになります。
こんな症状ですと、行動する、運動しようの意欲を妨げますので、ますます運動不足になり、筋肉は衰えサルコペニア症状を促進させます。
その他の要因として、栄養のバランス失調や過食などの障害、成長ホルモンの低下と異常、喫煙と過剰なアルコール摂取、酸化ストレス、免疫力の低下など、生活習慣にも関係して、サルコペニアが促進し、ロコモ症候群が増えていきます。
統計学では65歳以上になると3人に一人は、年一回はつまずいたり、バランスを欠いて転倒しているようです。
このつまずきや転倒、またはぎっくり腰、肥満などは75歳以上になると、大腿骨頸部骨折、手首骨折、坐骨神経痛、ひざ関節痛、腰痛などの原因になりますので、高齢者は日常生活に気を配りましょう。
実際に筋肉力は20歳中ごろがピークで、それからは衰えが始まり、骨は40歳代から衰え始め50歳すぎると急激です。
ことに女性は生理終了後、骨密度が急激に減少し、骨粗しょう症発症が心配されますので、その対策がロコモ発症を防ぎます。
さてこのように、ロコモ症候群は、身体的能力の低下が最大の原因です。
その能力低下は、加齢からくる自然的な生理現象が最大で、その生理的要因を回避したり先延ばしし、ロコモ症を防ぐことも人間の英知です。
年齢も暦上の年は同じでも、肉体的生理的能力の年齢は違います。
同じ老人年齢でも、1秒間に1.5メートル歩ける人と、0.8メートルの速度でしか歩けない人では、運動年齢は培違います。
この様な違いは、年齢が増すほど顕著になります。
80歳でも50歳の運動能力の人もいるし、60歳でも80歳の体力しかない人もいます。
そんな若い肉体と運動能力を保つためには、日ごろの生活習慣と行動が大切です。
誰でもが簡単にできる対策を列記しましょう。
歩幅を広く早足で歩く
自転車や徒歩で足腰を鍛える
エレベーターエスカレーターを使わず階段を歩く
休日など出来るだけ遠くへ歩いて出かける
近距離は電車バスを使わない
スポーツを積極的にやる
仕事合間の休憩時間に体操
TVを見ながらもストレッチ体操
家事の最中はテキパキ行動、合間にストレッチ
公園などの運動器具や遊具を使って体操
などですが、基本的には誰でもができる歩行外出と、時間を見ての体操です。
こんな簡単なことで、寝た切り要介護の状態にならないなら、積極的に体を
鍛えロコモ対策して、良い老人生活を送りたいものです。
ちなみに要介護の原因の第一位はロコモ症候群の25%、次いで脳血管障害後遺症19.6%、認知症16%、高齢介護13%、その他26.4%との報告があります。
ロコモ症候群の運動機能の低下劣化に、妙薬はありません、日ごろの生活習慣と積極的に行動と運動することが第一番の妙薬です。