〜肥満が原因、膝関節の変形と痛みのロコモ〜
(老人は仕方ないとのあきらめがロコモになる)
ロコモ症候群を再度取り上げましょう。
と申しますのも、私の周囲に、このロコモ症候群で、生活に支障をきたしている人達が多く、また故人になった知人、友人の中にも晩年、運動機能の低下で行動に不自由を訴えた人たちが多くいました。
私自身も数年前「脊柱管狭窄症」からくる坐骨神経痛で、しびれと痛みで歩行から坐臥起立行動まで悩まされ、その後遺症が完治したとは思われない症状が、齢をとったからか、体調によってなのか、時として発症するからです。
これもロコモ症候群の予備軍と言えるでしょうが、それを真正のロコモ症候群にせず、運動に支障のないこれからの人生を、快適に楽しみたと思います。
それにはどのような心掛けと対応がよいか、ことに下半身の運動機能に問題が起きないためにどうしたらよいか、毎日の生活態度の中で考えたいです。
そこでロコモ症候群になった身近の人たちを検索し、生活習慣や労働習慣、食生活から気質性格、病気発生の有無などを参考にし、反面教師としてロコモ対策を考えたいです。
前回も述べたように、発症の可能性を含めたロコモ患者は推定4700万人、日本人の35%にあたる人たちがかかる国民病ですが、その多くが60歳過ぎの老人であるということは、ほとんどの高齢者が罹患していることになります。
これは大変です、加齢とロコモ症候群は同義語になってしまいます。
人間、老人になるのは避けられません。
ただし老化の速度は人によってまちまちです。
それだから加齢性ロコモは心構えと努力によって、発症を防いだり遅らせることもできます。
それではなぜ運動器に問題が起きるか、その原因を知りましょう。
まずロコモ症候群は、加齢からくる筋肉劣化と、骨、関節の退化と変形が最大原因で、そのいくつかの症候群を列記しましょう。
まず筋肉です。
鍛えているいないにかかわらず、加齢により運動と関係する足腰の筋肉の減少は避けられず、また筋力も弱化します。それによる運動機能の劣化が顕著なのが「サルコペニア」と呼ばれます。
筋肉は関節の両側の骨に付着し、筋肉の収縮により関節を中心に、運動が行われ、その運動に必要な筋肉量と筋肉の収縮力が必要です。
もし歩行に必要な筋肉力が無くなると、収縮運動が出来ず歩行は困難になりますし、さらに筋力が低下すると膝関節、股関節に直接的重力がかかり、さらにダメージを与えます。
ことに膝関節は、体重増加と運動不足、過剰運動衝撃などが起きると、膝にかかる圧力は倍加し「変形膝関節症」「変形性股関節症」などの発祥の最大の要因となります。
また筋肉運動や骨格関節運動は、背骨脊髄の中を通る神経と直結していますので、椎間板ヘルニアや脊柱管の神経に異変が起きると「坐骨神経痛」「腰痛全般」などが発生し、しびれや痛みがひどく運動機能不全になります。
老化の現象の一つに骨がぼろぼろになる「骨粗しょう症」「圧迫骨折」「脊柱変形の腰曲り、猫背」があり、ことに閉経後の女性にこの症状が目立つのも、ロコモ症候群の顕著な症状です。
以上の四つが主な要因ですが、これらの発祥は多く加齢からくるものですが、全てが原因となり結果となってロコモ症候群になります。
さら付け加えれば、生活習慣と職業習慣、不慮の事故や運動機能を侵す病気、遺伝的体質などが、原因になるケースもあります。
事故、病気は自己管理以上に、医療での治療リハビリが重要ですので、今回は加齢からくる自然的発症と、生活習慣から来るロコモ症候群に的を絞ります。
その1、肥満が変形性膝関節症を起こしたロコモ
故人になった友人の彼は、メタボから来たロコモ症候群でした。
160センチの身長で、体重90キロBMIは29の肥満体で、アルコールも好きな健啖家で美食家でした。
「減量しなくては」の忠告に「太っていることが私のキャラ、体に異常もないし」と言い切っていましたが、その重い体重は膝関節には大きな負担でした。
50代の彼は仕事熱心でしたが運動はほとんど行わず、肥満のため歩くのが苦手で近距離でもタクシー利用する習慣でした。
その彼が60歳前後から右足の膝関節の痛みを訴えだしたのです。
私と一緒に日本座敷での夕食が終わって、立ち上がろうとしたとき、膝に痛みが走り立ち上がれなかったことがありました。
「大丈夫」と言いましたが、歩き始めや急に早足になった時、ズーンと痛みが走るようになったようです。
それを我慢し歩いていたら、5年後には左足にまで痛みが走り、さらに両膝が外側に歪曲し、アルファベットのO脚症状となり、ついに整形外科に通院するようになりました。
原因は肥満から来た、膝関節の異常です。
65歳となって、膝関節や周囲を取り巻く足の筋肉に弾力性が失われ、老化現象が起こったともいえます。
運動は苦手な彼の足の筋肉は鍛えていないので強くはなく、重い体重のほとんどが直接膝にかかり、膝関節の軟骨部分がすり減り、膝が変形し膝の曲げ伸ばしの屈伸運動も不自由にもなり、歩行も辛くなり、正座もできず、階段の昇降も苦手、生活にも支障をきたすほどになりました。
やがて両膝とも腫れ若干の熱を持つようにもなり、彼は医者から支給された湿布薬を膝に張り、その上からサポータで巻いて、膝がボール状態で屈伸もできない状態でしたが、仕事は休みませんでした。
人から勧められ、膝の関節の軟骨成分はタンパク質と糖分のグルコサミンで出来ているのでそれを食べろ、またコンドロイチンが必要だの、ヒアルロン酸が最も効果的、痛みに効くと言われた、あらゆるものを摂取していました。
心理的には藁をもつかむ気持ちでしたが、効果がありません。
医者に尋ねたら「膝の軟骨成分はグリコサミングリカンですが、コンドロイチン含め、その成分を食べても腸でタンパク質は分離アミノ酸に分解し、体全体に供給、膝にはいきません。おなじくヒアルロン酸も分子量が大きいので消化吸収が難しく、ひざの患部に届きません」と解説され、無駄なお金を使ったと後悔したようです。
考えてみれば分かることで、頭の毛が薄くなったからと言って、頭の毛を食べても毛は生えてきません、人間の体はそんな簡単なものではないようです。
ところが「ヒアルロン酸の患部注射は効果があります」と医者に言われ、その実行に踏み切り、暫定的には効いたようですが、完治には至りません。
そんな苦労が体調に影響します。
やがてメタボが原因の心臓病、糖尿病、動脈硬化、高血圧など発症しました。
もっともこれらの生活習慣病は、膝痛を含め運動器の退化の原因にもなります。
そんな彼が、膝痛の薬以外に生活習慣病の治療薬を、食後大量摂取するのを見て「食事の量より多い薬だナ」とからかったものです。
最後は免疫力が低下したのか、大腸がんが発症し、がん進行が体重を減らし膝への負担が少なくなったが、膝痛をかばっていたので、周囲の腿や脛の筋肉が緊張して痛くなり、私が勧めた「フルボ酸液」を、痛む足の筋肉に塗り、痛みが取れると喜んでいましたが、73歳で不帰の人となりました。
これは肥満からくる、変形性膝関節炎の典型的なロコモ症候群でしたが、歩くのも困難な痛みは彼の死も早めたのでしょう。
その2、無理な労働姿勢が腰と背骨を変形
酪農家の彼とは今でもよく面会し、酒を飲みカラオケに行きますが、彼の欠点の一つが50メートルも歩くと腰が疲れて歩けず、一休みしなければならないことです。
私と同年の84歳ですが、腰が曲がり、前傾姿勢で歩く姿は、老人そのものですが、ひとたび鍬を持って畑を耕す姿は若々しく勢いがあります。
腰から下は異常があるようですが、腕力を含め上半身は健在です。
彼は農業だけでは将来がないと、60年前から乳牛を飼育はじめました。
やがて40頭近くの乳牛を飼育し、その乳搾りは搾乳機がない時代すべて手作業。
体をかがめ腰を曲げて何頭もの牛の乳を搾る毎日が、かれの姿勢をだんだんと変え、最後は骨盤から背骨の骨格まで影響し、腰が曲がり脊柱が少し歪曲し前傾姿勢が日常となり、やがて腰痛から股関節の痛みまで伴うようになったようです。
「俺の腰痛はしゃがんで乳搾りを長くやった後遺症だ」と彼は言い切ります。
これは職業からくる、労働姿勢が骨の変形をもたらしたのでしょう。
50歳代までは腰痛は少しありましたが、まだ腰は曲がらず姿勢もしっかりしていましたが、齢とともに腰を伸ばすと痛みが走り、しだいね前傾姿勢となリ、歩行にまで影響するようになったようです。
骨はカルシウムとタンパク質が主体で、それを構成するのにビタミンDが欠かせません。
彼は酪農家で牛乳は良く飲み、カルシウムとタンパク質は充分、日光にあたる農作業でビタミンDも問題なし、それなのにロコモになったのは前傾姿勢の長時間労働が大きな原因です。
同じ姿勢の固定化も、その作業が終わった後、腰を伸ばしたり体操をしたり、腰に負担のかからないスポーツや運動を行っていれば、脊柱歪曲にならなかったかもしれませんが、そんな知識もなくただ働くことが生きがいの彼のロコモは、勤勉労働の勲章かもしれません。
その3、入院による足の筋肉減少で歩行困難
さらにもう一人の友人は、私と同年輩のゴルフ仲間です。
その彼は3年前からゴルフを止めました。
軽い脳の虚血症で入院し、手当てが早かったので1週間で退院しましたが、それをきっかけに初期胃がんが発見され再入院、そんなこんなで30日近く入院しベット生活を続けていたら、足腰の筋肉が急激に減少し、歩行に差し支えるようにもなりました。
それで健康に自信を無くし、精神的に弱気になり、また体力が弱って好きだったゴルフもやる気が起きくなったようです。
退院後一度、同年輩の仲間でプレーを共にしましたが、歩行が困難で皆について行かれず、ハーフでやめました。
「入院し齢をとって足の筋肉が無くなり、歩くのがつらいし、物につまずいてよく転ぶ」とこぼしてました。
「足の筋肉を鍛えたらいいよ、タンパク質を充分摂り、毎日散歩でもしたら、努力次第でかならず回復し、また一緒にゴルフができる」
「気持ちはやりたいがもうゴルフは無理だ。疲れがひどく、歩くことが億劫だ」
「運動とタンパク質中心の栄養摂取で、筋肉を増やし強くすれば回復する」
「食欲もないし、食事が美味しくない。最近は杖を突かなければ、怖くて歩けない」
歩く速度も遅く、5メートル歩くのに20秒近くかかる歩幅です。
私たちの体は食事からとった、タンパク質、糖類、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を消化吸収し、それを原料とし肉体は新陳代謝して、60兆もあるあらゆる細胞や骨格が、たえず入れ替わり新しくなります。
それらの栄養素は、子供が成長したり、大人が肥満になったり、髪の毛や爪が
伸びたり、骨折や切り傷が回復するに必須で、細胞が新しくなり、復元し蓄積
しているからです。
ただそれには物により周期があります。
たとえば、早いものは腸の上皮の2日、胃の上皮の5日があり、筋肉の代謝は60日で新しくなり、血液の赤血球で4か月など。
長いのは骨で90日で3−5%ぐらいが入れ替えりますので、すべての骨格が入れ替わるのは5年から7年となります。
ところが膝の軟骨などは、一説には117年と言われていて長く、人の一生と比較し膝軟骨が失われたら、再生はなかなか不可能となります。
こんな再生機能を参考にすれば、失った足の筋肉は再生でき、また再生速度も速いです。
しかし20代30代の筋肉の再生力と、80歳の再生力とでは違いますし、また筋肉量も30−40%は減少していますので、昔日の筋肉量とは行きませんが、歩行に必要な筋肉量と筋肉力は、タンパク質栄養摂取によって造成できます。
それが不可能なのは、彼のやる気の喪失です。
「歩いていてつまずいてよく転しぶ、帰れるかどうか心配だから、遠くへはいけない」
「筋肉が減って健康な時と比較したら、体重が15キロも減った、だから力が入らない」
先日彼の家に訪問した時、運動をしない理由をいろいろ聞かされ、回復をあきらめている彼のこんな気持ちが、ロコモになっていくのだろうと感じました。
人間は気の持ちようで、健康にも病気にもなると言います。
ですから気のやまい「病気」というのでしょう。
運動機能の退化は、一つには心の問題かもしれません。身体を健全にするやる気があるかないかが、問題です。
ロコモ症候群には、老人になったから歩行困難は仕方ないとあきらめている人たちも多いと聞きます、その一つの例でしょう。
さて次回は骨粗しょう症など骨の退化と、筋肉、筋力の退化を検証し、栄養摂取との関係まで調べましょう。