〜良い鶏肉は無菌と無抗生物質投与〜
(アメリカの有名レストランチェーンの無薬ランキング)
2016年9月26日の朝日新聞社会面に「鶏肉の生食は注意」の記事で、カンピロバクター菌による食中毒が、夏から秋にかけて最も発生しやすいと注意を喚起してました。
こんな記事が大新聞で取り上げられるのは、鶏肉生産者にとっては困ることで、病原菌汚染の鶏肉を生産している実態を報告されている気持ちです。
しかし実態はその通りで、このカンピロバクター感染は防ぐことがなかなか難しい病原菌の一つです。
というのも、この病原菌は鶏には病状を出さず、人間に感染した時に腹痛、下痢を伴う食中毒症状を発症するからです。
また鶏同士の間では伝搬が早く、屠体になった処理加工する工場内でも汚染する、厄介なバクテリアです。
厚労省の発表でも、スーパーマーケットで売られる生鶏肉の50〜60%ぐらいに、この菌が付着しているとしています。
実際今年になって、4月と5月に東京、福岡で開かれた肉料理イベントで、生鶏肉(ささみ)の寿司を食べた800人以上の方がこのカンピロバクター中毒で治療した事実があり、6〜8月の間で起きた食中毒56件中、カンピロバクターはその半分のようです。
それだけに生の鶏肉は決して食べず、加熱するように、また調理する器具、機材からの汚染も注意するよう指示をしています。
何れにしろ、消費者の食の安全安心に対しての関心は高く、このような記事でも鶏肉購買は躊躇しますが、牛肉、豚肉でもこの病原菌の汚染は皆無ではなく、加熱調理が絶対条件です。
卵かけご飯に代表される生卵は安心か?こんな疑問も当然ありますが、カンピロバクター菌の付着の心配はありません。
同じ鶏の卵ですから、採卵鶏も感染の可能性はありますが、乾燥状態では繁殖できず死滅するカンピロバクターの菌は、乾燥した卵殻の上では自然死してしまい安心です。
またサルモネラ菌と違い卵巣には汚染しませんので、卵の中には感染していません。
鶏肉は水分を含んでいますので、そこでは生き続けているのです。
このカンピロバクター菌は、欧米でも食中毒菌として大きな問題になっていますが、抗生物質のよう薬剤で対応することができません。
このマガジンでも以前取り上げましたが、欧米では鶏の病気発症に対しての薬剤使用には神経質です。
もし使用したなら、生産物に薬剤残留がなくなるまで市場には出せません。
卵も肉も同じです。
その理由は薬剤耐性菌です。
あらゆる抗生物質に対抗し、死滅しない病原性の細菌が増え、この耐性菌感染による病院内での死亡率が増加し、その背景に動物、家禽を飼育する生産現場で、抗生物質の多投与が原因の一つとされているからです。
ちなみにアメリカCDC(中央病気センター)の発表によりますと、年間200万の薬剤耐性菌感染患者発生、そのうち2万3000人が死亡しているとしています。
問題は、鶏や動物の病気に対して使用する薬剤と、人間が治療用に使用する薬剤がほとんど同じものがあることです。
その薬剤が肉や卵に残留し、それを食べる人間は身体の細胞に抗生剤が残留します。
しかしそれでも細胞は菌に感染します、その菌は当然耐性を持った菌ということになります。
このような原因がありますので、畜産動物への抗生剤使用は各国とも厳しい規制があります。
今年6月に開かれた、先進7カ国の伊勢志摩サミットでもこの問題が討議され、飼料に添加する成長促進目的の抗生物質は禁止するよう同意がなされています。
家畜生産に対する薬品使用に規制の少なかったアメリカでも、昨年2015年6月FDAから、抗生剤使用について獣医師の処方がなければ不可と指示がなされ、今年12月から実施のはずです。
ところが今日現在の実態は、いまだに抗生剤使用の鶏肉が多く、スーパーマーケットで売られる鶏肉から、レストラン、ファストフードで調理される鶏肉にその疑いが多く残されています。
ここに面白い調査報告があります。
これは食品の安全性推進のため、薬剤使用に警鐘を鳴らすNPO6団体が発表した、アメリカの代表的なファストフードとレストランチェーン25社が使用している鶏肉牛肉豚肉が、どれだけ薬剤フリー原料で対応しているかのランキングです。
ランクはA,B,C,D,E,F,の6段階に分かれ、昨年調査時よりどれだけ努力したかの評価も点数に加算されているようです。
Aランクはチポトレ・メキシカングリルとパネラブレッドの2社で、91%が無抗生剤の鶏肉使用での評価。
昨年落第点であったサンドウィッチのサブウェイは、評価が上がりBランク。
マクドナルドは米国内生産の鶏肉では、医薬品抗生剤は100%使用せず、耐性菌対応をしている評価でCランク、ただし肝心の牛肉はわからない。
余談ですが、マクドナルドは全世界のチェーンに無薬を指示しているが、中国だけは不可能との報告ですが、他の東南アジアの報告はありません。
ウェンディーズは医薬品抗生剤を減少した努力でどうにかCランク。
ピザハット、デニーズ、ダンキンドーナツ、バーガーキング、ドミノピザ、スターバックスなど16社はすべて落第、抗生剤無使用の運動もせず意識もないので不合格。
このような報告がNPO組織と言え公に広報されると、やがてその影響は今後の商戦に必ず影響します。
消費者は健康意識の向上で、食品の安全安心には厳しいです。
カンピロバクターやサルモネラの汚染鶏肉や卵は、過熱で防げますが、薬剤の残留は過熱しても洗浄しても防げません。
細菌汚染よりこの方が深刻です。
然し残念なことに、世界のマーケットはこの薬剤残留の鶏卵、鶏肉、豚肉、そしてホルモン残留の牛乳、牛肉が流通しています。
そのことを一番知っているのは流通業者であり、それ以上に生産者です。
現在鶏肉生産は、生産から加工まで統括したインテグレーター資本が経営しています。
決して無知な経営陣ではなく、薬剤の残留の問題点もよく把握しています。
ところが市場、消費者で問題が起きなければ、生産性向上と自分たちの利益のため抗生剤を使用続けるでしょう。
そこには消費者の存在がありません、安く新鮮なものを届けている自負だけが残ります。
カンピロバクターは加熱すれば良し、薬剤残留は深刻な問題ではないと決めつけて生産しているのが、いままでの世界の現状です。
然しこれからは急激に市場は変わるでしょう。
アメリカのNPOの発表に見るように、有識者の鋭い目が、消費者に代わってより安全なものの生産を評価するシステムがどの国でも芽生えてきます。
日本国内でも2020年オリンピックに向けて、細菌汚染と薬品残留の鶏卵、鶏肉、豚肉、牛肉を生産しない、厳しいチェックと規制が求められるようになります。
またその規制に対応できないところは自然淘汰されていくでしょう。
時代はコスト削減、生産性第一主義から、安全性第一の時代に入りました。
食品は人間の生命を支える大事な資材です、生命を支える資材が生命を奪う資材に替わることがないように。
私事ですが、私たちは数十年前から、薬剤に替わる有機的な生菌剤の時代になると予見し、努力してきました。
それには抗生物質に替わる、病原菌対応ができる効能がある物質でなければいけないと研究もしてきました。
カンピロバクターにも対応することも可能ですが、市場はコスト削減の意識が
高く、安全性より利益追及です、しかしやがて変わるでしょう。
生産者と生産企業の意識改革を啓蒙することも私たちの努力とも思います。