口蹄疫余談

〜日本中の国民が知った口蹄疫の恐ろしさ〜
(免疫、抗体産生で防ぐこれからのウイルス病対策)

先週の5月11日から週末まで台湾にいました。

その間も、宮崎の口蹄疫の発生は、終わるどころかますます拡大しています。

訪問した台湾の畜産関係の事業所や関係者は、宮崎の発生についてそれからそれへと状況を尋ねます。

それと言うのも、12年前悪夢のような口蹄疫の大発生で、台湾の豚産業が壊滅的打撃を受け、現在まで本質的には収束できない状態だからです。

中には前回のメールマガジンで発表した、宮崎県の口蹄疫についての小生の拙文を読んでいる読者もいまして、今日時点の動向や政府の対応策などへの関連質問も、かなり鋭いものがあり、対岸の火事と見過ごすには出来ない関心ごとなのでしょう。

それにしても怖い病気です。

前回のマガジンの中でも私は、伝播力の速さと感染力の強さを心配し、発症が後を絶たないのではと書きましたが、5月20日現在で12万頭前後の数字になっているとは驚きです。

また感染地区も、それからそれへと拡大してます。もっともウイルスには市町村の境も県境もありませんし、移動禁止もありませんので、それからそれへと感染媒体を見つけて、自分の仲間を増やします。

その増え方は、動物同士の接触によるものが最も分かり安い感染で、最初発病した1頭が、瞬く間に同一農場の飼育家畜すべてに症状が現れるにはそれほどの時間はかかりません。

その感染動物に接触した人間やペットが、他の農場に訪問すれば持ち運んだことになり、その農場への感染度は高まります。さらにあちこちの農場に出入りする飼料や薬品などのデリバリーのトラックなどは、感染キャリアーとしてはもっとも危険です。

野鳥や野生動物、昆虫などもウイルスの運び屋になるでしょうし。また困ったことには風などによってウイルスが四散する、空気感染もありえます。

こうなると感染の経路はあらゆるものとなります。

もうひとつ困ることは、感染初期には病状が出ません。典型的病状が出るまで潜伏期間があります。

その通常潜伏期間は、10日から2週間、あるいは3週間の場合もあるようです。

その間はウイルスを内蔵している保菌動物ですが、病状が顕在化していない不顕性なので、だれも病気だとは分かりません。だがウイルスは動物の細胞の中で潜み、一度に何千倍何万倍の数量となって細胞内で増殖し、表に飛び出し細胞を痛める準備をしています。

そして一編に病状を出します。こうなると誰の目にも特異症状を見ることの出来る顕性感染で、そこで対策をはじめますが、病気の感染予防からは大いに手遅れで、その時点では治療予防は無理です。それより危険なことは、症状は出ていない感染家畜がウイルスを潜伏させ、大発生させるべく待機していることです。

この潜伏期間が長い病気ほど、発病しないうちに感染だけ拡大してしまう恐ろしさがあります。

口蹄疫もそんな性質の病気の一つです。

宮崎での発生と同時期の現在、韓国でも同じタイプO型の口蹄疫ウイルスによる感染が各地で発生し、てんやわんやです。

それゆえ日本の消息通は、韓国からの伝播ではないかと疑い、そんな風評が流れもします。ところが韓国側からは、宮崎に訪問した畜産関係者が持ち込んだとの風評が流れているとの話を、今週18日に来社した、私どものフミン酸と発酵飼料の代理店の社長がもたらします。

両国とも、確たる感染経路が分からないだけに、何でも疑う疑心暗鬼症候群にもなっています。

面白いことに韓国では今年(2010年)1月から牛に口蹄疫の発生があり、その発生と感染拡大を食い止め、終息宣言を3月23日に発表ししましたが、その直後の4月6日に再度発生したいきさつがあります。

ただし1月発生のときのウイルスがA型なのに、4月に発生したタイプはO型でした。そうしますとO型の発生は宮崎と同じ時期になり、どちらが発生感染元で、どちらが感染被害を受けたほうか分からなくなります。

よしんばどちらかが感染源でどちらかが2時感染被害者としても、どのような感染経路でウイルスが伝播したのか疑問だらけです。

以前、同じ宮崎で鳥インフルエンザが発生したとき、韓国かあるいは中国経由の野鳥がウイルスを持ち込んだのとの推測がありました。

鳥は空を飛んで移動する国境のない野鳥ですので、大いに考えられますが、口蹄疫に感染する牛や豚は空を飛べません。だがこのウイルスが渡り鳥に付着して海を渡ることもありえるかも分かりませんが、春は日本から韓国経由でシベリアあたりの北の国へ帰るので、日本での発病原因の野鳥伝播説は立証が薄くなります。

それより鳥インフルエンザの際、まことしやかに話題になったのが、人間によるウイルス持ち込み説でした。

宮崎は南国ムードの観光地、韓国人が憧れの癒しの国です。その上ホテルも食事もゴルフプレー代も東京などと比べると安いです。

冬から春の寒い時期、多くの韓国ゴルフプレーヤーが宮崎を訪れます。
その中には養鶏業者も畜産業の人もいます。おなじゴルフ場には日本の畜産業者も養鶏業者もゴルフを楽しんでいます。

当然芝生を通してグリーン上で畜産業者、養鶏業者同士が接触します。まさかお互いが同業者とは知らず、ましてウイルスキャリアーなどとは思いませんが、この接触によるウイルスの受け渡しが、悲劇の引き金になることもありえます。

これはうがった見方ですが、実際問題として人間の移動、それも世界規模での移動は、動物や野鳥の移動より数も機会も多いです。この人たちが、畜産に関係ない人たちが、何も知らずに、病原性の高いウイルスや細菌の運び屋になりうることはたやすいでしょう。

口蹄疫に限らず、動物の病気、植物の病気、そうして人間の病気など、一番怖い運搬人が旅行者です。

私も年間7〜8回は海外出張します。多くは畜産関係の仕事が多いですが、家畜の病気発生地帯には立ち寄らず防疫には神経を使います。またどの国の国際空港にも、家畜伝染病の侵入を防ぐため、消毒マットが設置されていますが、専門的に言うと気休めの域を出ない防御処置です。

マットに消毒液をしみこませてあるのでしょうが、瞬間的にその上を歩いても靴全体の消毒にはならず、ウイルスも細菌も殺せません。

少なくとも数センチの消毒液の入った槽のなかに、数秒間靴を浸さない限り、ウイルスは死なないでしょう。また消毒液は絶えず新しいものに交換しない限り効果はありません。

しかしそれを徹底することは至難の業で、乗客とのトラブルの元ともなります。
手荷物と体の厳しいチェックのテロに対するセキュリティーには協力する乗客ですが、バイオセキュリティーへの理解はなかなか難しいかも知れません。

さて、ウイルス病を出さないためにどうしたらいいでしょう。

最も普及しているのがワクチンによる免疫抗体の産生です。つぎは基本的な遺伝免疫体質を作ることと、飼料や飼育管理による免疫力の扶助です。

私たち人間にも、風邪を引きやすい人と引かない人の免疫力の違いを見ます。
また若い時に出ない病気が、免疫力が低下した老人になると発病しやすいとも聞きます。

このように、免疫力向上が最も基本的な、病気対策です。それには免疫力が上がる、機能食品、機能飼料を摂取する方法もひとつの手段です。

12年前の台湾の口蹄疫騒ぎのとき、周囲の豚すべてが感染淘汰されたのに、奇跡的に発病症状がなかった農場がありました。ある飼料メーカーの直営農場です。

この飼料メーカーとは親しい関係があり、なぜに発病しなかったかの理由を後に聞きますと、資源微生物研究所が開発した大豆のイソフラボンと蛋白を、発酵と酵素触媒で抗酸化力と免疫力を高めた粉末を餌の中に混ぜていただけだ、との返事が返ってきました。

症状の出なかった豚の血清を調べたところ、陽性反応があったので、感染はしたが発病しなかったことになります。生理学的に言いますとウイルスは侵入したが、細胞の中で増殖せず退化してしまったことになります。

その細かな作用機序は説明が出来ませんが、とにかく免疫力が勝っていた証拠になります。

後の私たちはこの原料をSOD−LIKEと名づけ、人間の健康に寄与する「バイタリンZ」の開発に進みました。

私は畜産関係に長く携わっていたので、病気対策は動物の免疫力向上に限ると信じています。その手段の一つはワクチンです。しかし口蹄疫や鳥インフルエンザのようにワクチン接種が許可されていない病気対策には、免疫力向上を機能的飼料投与で防ぐ方法を絶えず模索しています。

そのひとつに大豆蛋白のペプチド化とプロバイオテックによる、腸管免疫の強化です。腸管免疫はガンマグロブリンA、IgA抗体を高くすることです。

SOD−LIKEで口蹄疫を防いだのも、このガンマグロブリン抗体の高さだと思います。

そこでこのたびSOD−LIKEと同じような、アミノ酸ペプチド結合とさらに機能性高いプロバイオテックとを混合した、大豆蛋白発酵生菌飼料を完成しました。かなり強烈な効果が期待できるものです。

ちょうどその折、台湾では昨年12月から今年3月ぐらいまで、弱毒の鳥インフルエンザが流行、一説には台湾全土で95%の鶏が感染したとも言われています。

弱毒株の感染は、強毒のインフルエンザと異なり、死亡鶏が少なくただ産卵低下、食欲不振、下痢、元気喪失などの症状が出ますが、生産者の中にはインフルエンザとは知らずにいて、自然治癒する鶏群もいるようですが、生産性の低下はまぬがれません。

たまたま、昨年暮れ親友の大手種鶏農場H氏が「何とかインフルエンザを防ぎたい」と相談があり、彼の種鶏25万羽にこの発酵生菌飼料を使用することになりました。

先週、彼と面会し状態を聞きましたところ、下痢もせず産卵低下もなく、種卵の孵化も順調、雛の品質は向上し人気が高くなったと喜ばれました。

鳥インフルエンザの侵入があったかの調査はしませんでしたが、飼育している鶏群に異常がなかったのだから、感染があったが免疫抗体が高いので発病しなかったことになります。

なおこの餌は、鶏卵の問題になるコレステロールを30%も低くする、作用もあるので台湾では各飼料メーカーが着目もしています。

このように機能性の高い飼料を、バイオテクニックで作り出す技術が、これからの畜産業界には必要です。

ウイルスに対する防御に、もうひとつ天然のフルボ酸があります。これはまだ私たち自身で実験はしていませんが、世界中の研究者が注目している素材で、文献的には鳥インフルエンザからエイズウイルスへまで抑制するとの報告は多いです。

たしかにワクチンの開発される前の、豚サーコウイルス病やPRRSなどの育成率向上にかなりの効果があったことは確かで、同じ作用が期待されれば口蹄疫の初期感染の防御に役立つかもしれません。

ただし今回の強力のウイルスに対しては果してどうでしょうか。

この拙文を書いているとき、政府は発生地中心の発病がない豚牛すべてにワクチンを接種し、感染の拡大一時的にストップさせ、やがて時間をかけて殺処分する方針が決まったようです。

それはひとつの考えですが、またこれからさまざまな論議が巻き起こるのは必定でしょう。